「ラズベリーが欲しい」
今から十数年前、ドイツから帰国したばかりの妹は、東京でもラズベリーが入手困難でドイツで習ったお菓子が作れないようでした。
ちょうどその頃、秋田で家を建てた際に作った小さな畑で何を育てようか私は考えていました。
ラズベリーはバラ科に属し細かい分類はありますが、別名フランボワーズ、キイチゴと呼ばれ、未熟果実を乾燥したものは生薬の覆盆子で名医別録に収載されています。
覆盆子と書くようにお盆を覆したように果実内部に空洞があり、そのため果実は繊細で重ねると潰れてしまいます。ラズベリーは小核果という小さい果実の集合体でできており、鮮やかな赤色で甘酸っぱくジャムやお菓子、フランス料理などのソース等にも使用されます。現在秋田県が全国一位の生産量となっています。
初めは苗をホームセンターで買いましたが、歪な果実が多く虫も付いてしまい上手く育ちませんでした。
偶然にも隣町で栽培研究会があると知りそこで一年ほど研修を行いましたが、独自に栽培方法や品種の研究を始めました。
ラズベリーは国内ではマイナー作物のため農薬の登録が少なく、土壌放線菌由来のマクロライド系殺虫剤やバチルス・チューリンゲンシス菌を用いた生物由来の農薬しかほぼ利用できません。
小核果が全て受粉しないと綺麗な果実にならずそれには虫媒が必須です。
輸入品は化学農薬を多数使用できるのに、国産は農薬登録がほとんどないという不利な状況で、どのようにしたら虫に完全に受粉をさせて収穫時には虫をゼロにできるのか試行錯誤を重ねました。
品種も重要で、入手できる品種は、色、形、味、輸送性など調べて納得できる品種を見つけ、さらに選抜を行いようやく安定的に生産可能になりました。
家庭菜園だったのが、近場に農地を借り兼業農家となり販売を行うまでになりました。
しかしマイナー作物のために農協には出荷できず、販路は自分で見つける必要があります。
鎌倉のコンフィチュール店に売り込みをしたりと徐々に販路を増やし、現在は農家直販サイトやふるさと納税でも扱っていただいています。
しかし農業のみで生計を立てることは困難で厳しい世界です。天候にも左右され、また栽培しても果実が買ってもらえる保証はありません。
安定している本業があったからこそ、好きなことにも打ち込めたと思っています。
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